持分なし医療法人は本当に損なの?デメリットを考察
現在、医療法人を設立すると出資持分なしの医療法人になります。
弊所で定期的に開催しているセミナーでもこの持分なし医療法人についてのご質問を受けることがあります。
「解散したら国に財産を取られるんでしょ?」「設立するより出資持分あり医療法人を買った方が得なのでは?」と。
持分なし医療法人は本当に損なのか、個人的な見解を交えながら考察してみたいと思います。
1.持分なし医療法人とは
株式会社は設立するときに「1株あたり○○円」と出資金を出します。
会社の価値が上がれば1株あたりの価値も上がります。
昔の医療法人は社員と役員以外に「出資者」という人がいました。
出資者が出した出資金は株と同じように医療法人の価値が上がれば膨らんでいきます。(配当はありません)
これが出資持分あり医療法人です。
医療法改正により、平成19年4月1日以降は出資持分ありの医療法人を設立することができなくなりました。
ものすごくざっくりというと
持分あり医療法人→医療法人の資産は出資者のもの
持分なし医療法人→医療法人の資産は医療法人のもの
※「出資者のもの」は勝手に使えるという意味ではありません。株と同じように売ったり相続したりできるという意味です。
全国にある医療法人社団のうち、この持分ありとなしの数は次のようになっています。
「厚労省 医療法人数の推移」より 平成31年3月31日現在
医療法人社団総数:54,416
持分あり:39,263
持分なし:15,153
今設立する医療法人社団はすべて「出資持分なし」になるので、なんだか損するような気がするかもしれません。
では本当に損なのか、持分なし医療法人のメリットとデメリットについて少し掘り下げてみていきます。
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2.持分なし医療法人のメリット
上述で説明したように、持分なし医療法人の資産は医療法人のものです。
大きく分けて2つメリットがあります。
①相続税が発生しない
医療法人の資産は医療法人名義です。
理事長個人の財産ではありません。
理事長先生が亡くなっても医療法人名義の資産については相続が発生しません。
当然、相続人に相続税はかかりません。(理事長個人名義の財産には相続税はかかります)
お子様がそのまま医療法人を事業承継してももちろん相続税は発生しません。
②「出資持分を返してほしい」といわれない
持分あり医療法人の場合、社員かつ出資者が医療法人をやめるときに持分の払戻請求をされることがあります。
例えば
理事長と奥様が1:1の割合で出資して医療法人を設立
↓
夫婦仲が悪くなり離婚、奥様が医療法人を退社する
↓
奥様に「出資持分を返して!」と請求される
急に「返して!」といわれると大変です。
このケースでは1:1なので、出資金がいくらだったかにかかわらず医療法人の資産の半分を奥様は請求する権利があります。
法人に現預金がたくさんあればいいのですが…
なければ法人名義の建物や医療機器を売ったり、理事長が個人の財産を補填したりして工面するという事態になります。
出資持分なしであれば、そもそも「出資持分」はありません。
奥様が医療法人を退社されても「医療法人のお金をちょうだい」という事態にはなりません。
このように人的な経営危機を避けられます。
3.持分なし医療法人のデメリット
それではいよいよデメリットについてみていきます。(個人的見解も含みます)
よくあるご質問を3つあげてQ&A形式で記載していきます。
Q1.解散したら国に医療法人の財産を全部とられるのでは?
A.はい、取られます。(厳密には「残余財産」が)
医療法第56条より
解散した医療法人の残余財産は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除くほか、定款又は寄附行為の定めるところにより、その帰属すべき者に帰属する。
2 前項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。
この条文をみると「定款で理事長へ帰属するとすればいいのでは?」と思われるかもしれませんが。
定款でも残余財産の帰属先は国や地方公共団体などとするように決められています。
ただし、帰属するのは「残余財産」です。
医療法人を解散するときには清算をします。
理事長への退職金、従業員への給料、借入金の残金、解散手続き費用など。
そういったお金を支払って残ったお金が「残余財産」になります。
出資持分がある場合にはこの「残余財産」は出資者へ返還されますが、税金がかかります。
どちらにしてもこの残余財産は解散するときには少額の方がよいと考えられます。
Q2.新たに設立するより持分あり医療法人を買った方が得?
A.個人的には設立をお勧めします。
メリットで記載したように、出資持分があると相続や出資者の退社に伴うリスクが発生します。
最大のデメリットと考えられる「解散すると国に残余財産を取られる」についてはどうでしょうか。
確かに出資持分あり医療法人は残余財産は出資者に戻ります。
ただし、戻るときには税金がかかります。(しかも税率が高めです)
そのため、通常は解散するときには退職金などを支払ったりして残余財産を抑えるように対策を取ります。
そもそも相続が発生したときに医療法人が経営危機に陥らないようにつくられたのが「持分なし」医療法人制度です。
個人的にはデメリットよりもリスク抑制効果の方が高いと思います。
Q3.持分がないから医療法人を売ることはできないの?
A.そんなことはありません。
確かに持分ありの方が売るときにはわかりやすいです。
しかし、医療法人の持分は上場会社のように公開されていたり流通されていたりしません。
持分ありも簿価や類似業種評価額などを参考に買い手と売り手で決めていきます。
(参考:医療法人を売却したい!価格や相場は??)
持分なしについても同じように法人の価額を算定することは可能です。
4.まとめ
イメージだけだと持分あり医療法人のほうがなんとなくよさそうな気がすると思います。
しかし、個人的には「持分なし医療法人」はとてもよくできた制度だと感じています。
そもそも万が一のときに莫大な相続税から医療法人を守るためにできた制度です。
医療法人は株式会社ではありません。
持分があっても配当は発生しないし、頻繁に出資持分を売買して利ザヤで儲けたりとかはしません。
そう考えると、総合的には「持分なし」の方がリスクの少ない医療法人ではないかと私は思います。
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